再生医療支援機構

眼科分野

「目の再生医学」

慶應義塾大学医学部眼科学教室
教授 坪田一男 先生

眼内レンズから眼の再生医療がスタートした

 臓器を再生し、傷害された臓器と入れ替える治療が発展しつつある。再生医療である。従来は病気となった臓器をなんとか回復させようとしていたが、再生医療では悪くなった臓器は取り去り、代替の臓器に変換する。壊れた器械のパーツを取り替えるイメージに近いことから“人体パーツ変換戦略”とも言われる。ヒトの体は単にパーツが集まったものではなく統合されているものなので、パーツ変換戦略には限界があるものの、有効な治療法と考えられる。

 眼科領域でもっとも成功している例が、白内障に対する治療法である眼内レンズだ。水晶体は本来透明であるが、加齢により白濁してくる。この白濁した水晶体を取り去った後に挿入するのが眼内レンズである。約25年前に初めて臨床応用された眼内レンズは素晴らしい進歩をとげて、日本においても年間80万件の手術が行われるようになってきた。治療に対する満足度も高く、日本の眼科医の技術レベルは世界的にもトップレベルと言える。

 最近は単なる眼内レンズにとどまらず、遠近両用の眼内レンズや、調節力の再現を期待するアコモダティブIOL(調節可能眼内レンズ)が開発され、老眼への対処も試みられている。アコモダティブIOLでは眼内レンズの一部にひんじ構造があり、毛様体筋の動きが眼内レンズに伝わることによって光学部分が前後する設計である。これによって調節力が出ると考えられている。

角膜上皮の培養移植が発展

 角膜上皮の幹細胞を移植することによって従来治療不可能であった重症の眼表面疾患を治療できるようになり、角膜の再生医療も始まっている。

 細胞ソースとしては、片眼が健常な場合には自己からの採取が可能であり、それが不可能な場合は親族やドナーからの細胞供給を行う。近年では、両眼とも障害を受けた症例に対して、自己の口腔粘膜を羊膜上に培養して移植に用いる京都府立医大の木下茂教授らにより開発された“口腔粘膜培養移植”も臨床応用されている。上皮にとどまらず、現在は、実質、内皮細胞の再生研究も積極的に行われており、将来は角膜自体の再生も可能となるだろう。角膜上皮、実質、内皮の3層構造を持つ角膜全層を移植するのではなく、必要な部分だけを移植する“角膜部分移植”が行われていくものと予測される。輸血が最初は全血輸血から始まり、今では血小板輸血など必要なものだけを輸血する部分輸血へと進化していったようなイメージだ。

 眼科領域の再生は角膜にとどまらない。現在チップと組み合わせたハイブリッド型の網膜再生が進行しつつあり、網膜そのものの再生も研究対象となっている。網膜レベルでも神経幹細胞が見つかり、神経も含めた再生という夢が広がっている。網膜、視神経の再生が可能となれば現在の失明の半分以上を救うことができると期待されている。

 このように眼科における再生医学はすでに臨床応用も始まり、将来が期待できるものだが、まだまだ時間がかかる面も存在する。そこで基本的なことだが病気にならないように予防していくことがまずは大切となる。眼科領域の病気に関して、老視(いわゆる老眼)、白内障、緑内障、加齢黄斑変性、ドライアイ、糖尿病性網膜症、中心静脈閉塞症など、加齢が大きなリスクファクターであるものが多い。そこでアンチエイジング医学の概念とその導入が重視されてくる。

 

「眼科医療と羊膜」

京都府立医科大学眼科学教室
講師 外園 千恵 先生

 からだ全体の大きさからみると、眼はとても小さな構造物ですが、ヒトは眼を通して80%以上の情報を得ています。眼の構造はカメラに似ており、眼の最も外側にある角膜(いわゆる「くろめ」の部分)は、カメラの表側のレンズに相当します。カメラのレンズが曇ったときに良い写真が撮れないように、角膜が混濁すると視力が悪くなってしまいます。

 角膜が濁る病気はたくさんありますが、なかでも翼状片、化学外傷、熱傷といった、眼球とまぶたの癒着を伴うような病気は、手術をしても再び癒着や混濁が生じてしまい、なかなかうまく治すことができません。しかし手術の際に羊膜を眼球に縫い付けると、癒着や混濁が再発しないことがわかってきました。

 羊膜は、適度な弾力と強さをもっているために、眼球にきれいに縫いあわせることができます。また羊膜には、炎症を抑えたり、瘢痕形成を防止する力があるのです。

 さらには、羊膜のうえで角膜の細胞や口腔粘膜の細胞を増やして、培養角膜上皮、培養口腔粘膜上皮といった上皮シートをつくることができるようになりました。病気の角膜の表面をこの上皮シートに置き換えることで、これまで全く治療法のなかったStevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡といった難病の患者さんが視力を取り戻せるようになってきました。

 赤ちゃん一人分の羊膜から、眼科手術に必要な羊膜が15-20枚くらい採取できます。元気な赤ちゃんの誕生が、眼の病気が治ることにも役立つのです。

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